Pebble Coding

ソフトウェアエンジニアによるIT技術、数学の備忘録

モジュラー形式その4

j関数は重さ0のモジュラーです。つまり、
 j( \frac {a z + b} {c z + d}) = j(z)
zで微分します。
 \frac {d  j(\frac {az + b}{cz+d}) } {d (\frac {az+b} {cz+d})} \frac {d(\frac {az+b}{cz+d})} {dz} = \frac {df(z)} {dz}
ここで、
 \frac {d(\frac {az+b}{cz+d})} {dz} = \frac {a} {cz +d} + \frac {(az+b) (-c)} {(cz+d)^{2}}
 = \frac {a(cz+d) - c(az+b) } {(cz+d)^{2}}
 = \frac {ad - bc} {(cz+d)^{2}}
 = \frac {1} {(cz+d)^{2}}
これを使うと、
 \frac {d  j(\frac {az + b}{cz+d}) } {d (\frac {az+b} {cz+d})}  = (cz+d)^{2} \frac {dj(z)} {dz}
これは、
 \frac {dj(z)} {dz}が重さ2のモジュラーであることを意味します。
jの微分がモジュラーになるというのは、Math Overflowという数学専用質問サイトで発見しました。

モジュラー形式その3で示したように、任意の重さのモジュラーは E_4とE_6の結合で表すことができます。
重さ2のモジュラーを作るにはk=2=4i + 6jとなるi, jを選べばよいです。
ここで、重さ0のモジュラーであるjで割っても重さは変わりませんので、割っても成り立ちます。
ただし、両辺の極を一致させる必要があります。左辺はj=0で極をもつので、右辺もj=0で極をもつ必要があります。
jと E_4は比例関係にあるので、 E_4が分母に来るようにしないといけません。つまり、iは負である必要があります。
もっとも小さい値だと、i=-1, j=1となるので、
 \frac {\frac {dj(z)} {dz}} {j(z)} = c E_6 / E_4となります。
cの値を決定していきます。
 E_4(z) = 1 - 240 \sum_{n=1}^{\infty} \sigma_3 (n) q^{n}
 E_6(z) = 1 - 504 \sum_{n=1}^{\infty} \sigma_5 (n) q^{n}
 j(z) = 1 / q + 944 + O(q)
 q = exp(2 \pi i z)
から
 dj(z)/dz = -2 \pi i q / {q}^{2} + O(q) = -2 \pi i / q + O(q)
\frac {dj(z)/dz} {j(z)} = \frac { -2 \pi i / q + O(q)} {1 / q + 944 + O(q)} (式A)
 z \rightarrow i \inftyであるとき q \rightarrow 0なので、
式(A) =  \frac {-2 \pi i  + O(q) } {1 + 944 q + O(q^{2})} (q=0) = -2 \pi i
となります。
 E_6(q=0) / E_4(q=0) = 1であることも分かります。
したがって c = -2 \pi iとなります。
 \frac {\frac {dj(z)} {dz}} {j(z)} = -2 \pi i E_6(z)/E_4(z)
ここで、 \frac {df(z)} {dz} = \frac {df(q)} {dq} \frac {dq} {dz} =  \frac {df(q)} {dq} 2 \pi i qを使って書き直すと、
 q \frac {\frac {dj(q)} {dq}} {j(q)} = - \frac {E_6(q)} {E_4(q)}
となります。

j=1728を極にもつ場合


 \Delta = \frac {{E_4}^{3} - {E_6}^{2}} {1728}
 j = \frac {{E_4}^{3}} { \Delta }
 {E_4}^{3} = j \Delta
 \Delta = \frac {j \Delta - {E_6}^{2}} {1728}より、
 {E_6}^{2} = j \Delta - 1728 \Delta = (j-1728) \Delta
 j - 1728 = \frac {{E_6}^{2}} {\Delta}
右辺が重さ0のモジュラーなので左辺も重さ0のモジュラーであることになります。
同じように j - 1728で割ったものを考えます。今度はj=1728で極をもつような右辺を作る必要があります。
j-1728は E_6と比例関係にありますので、j=1728で極を持たせるには、 E_6は分母にする必要があります。
なので、 \frac {dj(z)/dz} {j(z)-1728} = c {E_4}^{2} / E_6となります。
cを決定していきます。
 \Delta = q \prod_{n=1} (1-q^{n})^{24}を使うと、
 \frac {dj(z)/dz} {j(z)-1728} = \frac {-2 \pi i / q + O(q)} {(1 - 504 \sum_{n=1} \sigma_5(n) q^{n})^{2}} q \prod_{n=1} (1 - q^{n})^{24}
q=0とすると、 -2 \pi i
したがって、
 q \frac {dj(q) / dq} {j(q) - 1728} = - \frac {{E_4}^{2}} {E_6}

 q \frac {dj(q)} {dq}の微分のことを以後j'(q)で表すことにします。

E_4とE_6の微分


 \Delta = q \prod_{n=1} (1-q^{n})^{24}
です。
qで対数微分をとると、
 \frac {d \Delta / dq} {\Delta} = \frac {1} {q} + 24 \sum_{n=1} \frac {-nq^{n-1}} {1 - q^{n}}
qをかけて、
 \Delta' / \Delta = 1 - 24 \sum_{n=1} \frac {n q^{n}} {1-q^{n}} = 1 - 24 \sum_{n=1} \sum_{m=1} n q^{mn}
 = 1 - 24 \sum_{l=1} \sigma_1(l) q^{l}
となりますが、
 E_k = 1 - \frac {2k} {B_k} \sum_{n=1} \sigma_{k-1}(n) q^{n}
 B_1 = 1/6
なので、これは E_2に等しいです。したがって、
 \Delta' / \Delta = E_2
であることが分かりました。

 E_4^{3} = j \Deltaを対数微分すると、
 3 E_4'/E_4 = j'/j + \Delta' / \Delta = - E_6/E_4 + E_2
となります。

 {E_6}^{2} = (j-1728) \Deltaを同じように対数微分し、
 2 E_6'/E_6 = j'/(j-1728) + \Delta' / \Delta = - {E_4}^{2} / E_6 + E_2
となります。

 j' = -j E_6 / E_4を同じように対数微分し、
 j''/j' = j'/j + E_6'/E_6 - E_4'/E_4 = - E_6/E_4 + \frac {1} {2} ( - E_4^{2}/E_6 + E_2) - \frac {1} {3} (-E_6/E_4 + E_2)
 = \frac {1} {6} E_2 - \frac {1} {2} E_4^{2}/E_6 - \frac {2} {3} E_6/E_4
となります。

楕円曲線と保型形式

楕円曲線と保型形式

  • 作者:N.コブリッツ
  • 出版社/メーカー: 丸善出版
  • 発売日: 2012/07/17
  • メディア: 単行本